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福岡地方裁判所 昭和44年(ワ)1022号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、被告会社が被告車を運行の用に供していたこと、および訴外寛三と原告らとの身分関係については当事者間に争いがない。従つて被告はその免責の抗弁が認められない限り本件事故によつて原告らの受けた損害を賠償する義務があるので免責の抗弁について判断する。

<証拠>を綜合すると次の事実を認めることができる。1本件事故現場は、福岡市大字上月隈字用中六三三番地東邦地下工機株式会社福岡工場前の国道三号線上であるが、同所付近はアスファルトで平坦に舗装され、その有効巾員は10.55メートルの直線道路で、その中央にはセンターラインの表示がなされ、衝突地点から約三〇メートル筑紫野町二日市方向に行つたところから右にゆるやかにカーブしている。見通しは良好で事故当時曇天で路面は乾燥していた。

2 訴外永富義之は事故当日の午前五時頃起床して食事をした後被告会社の福岡営業所に出勤し、午前五時三〇分から約三〇分間被告車の仕業点検を受け故障のないことを確認のうえ同車を運転し福岡県筑紫郡春日町大字須玖所在の麻生セメント春日工場に向うべく出発し、国道三号線上を同郡筑紫野町二日市方向に向け時速約五〇キロメートル以上の速度でかつセンターラインから0.6メートル内側の地点をセンターラインに平行して進行し本件事故現場直前にさしかかつたところ前方約一〇〇メートルの地点をセンターラインから約一メートルほど内側の地点をセンターラインに平行して対向してくる訴外寛三の運転するタクシーを発見し、そのまゝの状況で互に進行を続けたところ、両車の間隔が約11.7メートルの至近距離に近づいた瞬間、右寛三車が急にセンターラインを超えて斜めに進行し被告車の直前に進入してきたため、危険を感じて急制動などの避譲措置を講ずる余裕なく、センターラインから約0.6メートル被告車の進路上に入つた地点で被告車の右前部と寛三車の右前部とが激しく正面衝突し、寛三車は後に押し戻されて大破転覆し、被告車は中破したままゆるく右に回転しながら進み車の前部を右側道路外の田に乗り入れて停止した。

3 訴外寛三は体は丈夫で特別な悩みごともなく事故の前日午前七時三〇分、浮羽郡吉井町の自宅を発つて福岡市にある博多自動車有限会社に出勤し、事故当日の午前一一時四四分頃国鉄吉井駅に下車し、自宅に帰る予定であつたが、事故当日の午前二時ごろ、福岡市から長崎県諫早市まで乗客を運び、その帰りに本件事故に遭遇したものとみられ、事故当時乗客はなかつたのにタクシーのメーター表示板は倒れたまゝで料金は九、一四〇円を表示していた。

右の事実が認められ、右認定に反する証人牛房邦靖の証言は<証拠>に照らし、たやすく信用し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない。即ち、証人牛房邦靖は本件事故は訴外永富義之が無理な追い越しをはかりセンターラインをオーバーして訴外寛三の運転するタクシーに衝突したものであり、自分は被告車の後方を走つていた車に同乗し、右事故を目撃した旨証言するが、同証人が右事故を目撃したと主張する位置は被告車の後方約三〇〇メートルの地点を同方向に走行する車の助手席からというのであり、目撃の正確性はかなり弱いものというべく、又右目撃の結果は実況見分調書の記載と重要な点で一致しない。即ち乙第五号証の実況見分調書によれば衝突にともなう擦過痕は被告車の走行車線上にのみ認められ、更に被告車の左の車輪のコーナリング痕は被告車走行路上でセンターラインから約3.10メートル内側に入つた地点から始つているのであつて、この事実に被告車の車幅が2.37メートルであることを考え合わせれば本件衝突地点は被告車走行車線上であつたことがうかがわれる訳である。更には、右証人が果して前示証言の如く、事故直前に被告車の後方を走る自動車に同乗し本件事故を目撃した事実の有無については疑いがあり、<証拠>を綜合すると牛房証人は、本件事故の約五〇日後に突然右事故の唯一の目撃証人としてあらわれた人物であり、当時、捜査担当の警察官および被告会社の事故調査担当者はそれぞれの立場で、右証人の証言を裏付けるべき事実の調査に力をつくしたがこれを得ることができず、同証人が当時事故現場に臨場していたことの裏付けは全くないことを是認し得るので同証人が、本件事故を目撃をしたこと自体多分に疑わしい点があり、結局右牛房証言は、本件事故につき被告の責任の有無を決すべき重要な証言というべきであるが、叙上認定の各事実に照しにわかに信用しがたいといわざるをえない。

三、以上の事実に徴すると、本件事故は訴外寛三が徹夜の仕事疲れにより注意力が散慢となり被告車の直前で突如センターラインをオーバーして被告車と正面衝突したため発生したものとみるのを相当とし訴外寛三の一方的過失によつて惹き起されたものといわなければならない。従つて被告車を運転していた訴外永富には本件事故発生について過失はない。次に前記認定のとおり、対向車が至近距離から突如センターラインを越えて被告車直前の進路上に進入してきたため本件事故が発生したものであつて、訴外永富にとつてまつたく不可抗力によつて生じたものであるから、被告車の保際有者である被告の右永富に対する選任監督上の注意義務の存否および被告車の構造上の欠陥ないし機能障害の有無は本件事故と因果関係がないといわなければならない。したがつて、被告には本件事故による原告らの損害を賠償するべき責任はない(木本楢雄 綱脇和久 加島義正)

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